感情の次元論
今回は、感情について、進化的視点から展開された理論の一つで、次元的アプローチとして提唱された理論をいくつか紹介します。それではさっそく見ていきましょう。
次元論によると、情動は、生理的変化だけでなく、身体的な情動表出を引き起こします。詳しく説明すると、生理的変化とは、自律神経系のはたらきによる身体内部の変化を指します。また、身体的な情動表出とは、骨格神経系が支配する筋肉の変化、つまり身振りや声、顔面表情等を指します。それらを周囲が見ることによって、他者の情動の判断ができるのです。特にヒトの情動表出で最も顕著なのは顔面です。顔面を見ることで、ある程度その人の情動を知ることができることも多々あります。
情動について軽く説明したところで、次に提唱者別に感情について見ていきましょう。
Woodworth, R. S. (1938)
まずはウッドワースです。彼は、感情を次元的に展開した人としても有名です。現代の感情を環状構造の嚆矢となった考え方です。彼によると、6つの感情のクラスがあるとしました。
- 愛・喜び・幸福
- 驚き
- 恐怖・苦痛
- 怒り・決意
- 嫌悪
- 軽蔑
これらの感情を提唱しましたが、愛・喜び・幸福と軽蔑は混同されることが多いと主張し、つまりこれは環状構造を成しているということを意味します。
Schlosberg, H. (1952,1954)
スコルスバーグです。彼は、円環モデルの後、円錐モデルを提唱しています。
まず円環モデルとして、2次元で“快、不快”の次元と“注目、拒否”の次元を想定していました。その次元の中間の愛や驚きなどを仮定していますが、その二年後、“緊張、睡眠”の次元を追加し、円錐モデルを提唱しています。
Plutchik , R. (1980,86)
プルチックです。この人物は感情関係の理論において有名な人です。この人の理論は最低限覚えておいてほしいですね。
プルチックは基本感情の多次元モデルと、心理進化説を提唱しています。
基本感情の多次元モデル
まずは基本感情の多次元モデルについて紹介しますね。
この人はまず、中心が〈葛藤〉の円環型に基本感情を配置しています。またさらに、それぞれの感情には、混ざり合うことで生まれる混合型が存在するとしており、その混合型は円環の外側に書かれているような感情を指します。
例えば、〈喜び〉と〈受け入れ〉の混合型は≪愛≫といった感じですね。
そしてさらに、この円環型に 強弱 を付け加えます。それが、二つ目の画像です。もう弱の感情まで書いてられなかったんですが、こんな細かいところまでは出ないので試験対策としては問題ありません。
感情の心理進化説
1980年に提唱していますが、この人物は感情について、「進化段階における順応行動であり、動物にとって感情反応は生命維持、種族保存に必要な基本的・原型的行動パタンである」と述べています。
さらに
「人の行動には8種類の行動の原型(prototype)があり、それに対応する純粋感情(基本感情)がある。これらの基本的行動原理は、二つずつの対になって両極を形成し、純粋感情は色相が円環状に配置されるような円環構造を持ち、類似した感情は類似した位置に布置される」
と述べています。ここの8種類の行動のプロトタイプとは
- 逃走
- 警戒
- 泣き
- 吐く、回避
- 調べる
- 攻撃
- 求愛
- 分かち合い、世話
この8つと述べていますが、諸説あるようなので、あまり詳しく覚える必要はないかと思います。
Ekman (1972)
最後はエクマンの理論です。この人物もとても有名で、頻出なので、この人物の理論については少ししっかりと把握しておきましょう。
彼は基本的情動理論と社会構成主義との折衷モデル、という位置づけの理論を提唱しています。
彼は感情について、神経と文化の両方のアプローチから説明できる、と述べました。
顔の表情の近似性は、遺伝的な「顔面感情プログラム」の働きによって説明されると述べています。一方で、表情の違いは「文化的なもの」と考えられ、人がそれぞれの文化の中で「社会的表示ルール」(表情についての社会的慣習)を学習する結果生じてくる、と説明されます。この理論について、視覚的にまとめるとこのような感じです。
つまり、感情生成までの段階として、まず想起する文脈があること、次の段階として、もともとプログラムされている感情がピックアップされ、そこに文化差が生じることで、表情の変化をはじめとする情動表出につながる、ということです。そのため、感情を出す、出さないは、文化差であるということができます。
日本人は遠慮をしたり、お世辞を言ったり。お葬式では静かに泣いたり。外国では見られないような複雑な感情があることも、ひとつ、この理論の通りなのかもしれません。
この理論に至るには、文化の異なる国の人に、外国人の顔写真を見せ、その人の感情について考察してもらう、という実験を行っています。その実験の結果から、ある程度の表情はみんなが生まれつき持っている普遍的なものであり、その中からさらに複雑な文化のルールにより様々な感情が生成されると考え至ったようです。
この理論の説明でもサラッと述べましたが、基本的情動理論については、個別の記事で詳しく扱う予定ですので、『基本的情動理論』を参考にしてください。※まだこの記事は更新していません。
この理論についてのいくつかの批判を紹介しておきます。
- 顔写真を用いる実験は、俳優のポーズが特定の感情の名称を基礎にしている。
- 顔写真では、情動が生じるまでの文脈が排除されている。
- 社会文化的構成主義立場によると、情動カテゴリは生得的に存在するのではなく、各社会文化固有の情動表出の仕方を獲得する。
このような批判が挙げられているようですが、ひとまず古典的な感情の理論として、エクマンについてはしっかりと確認しておきましょう。
以上で感情の次元的アプローチについては終わりです。盛りだくさんの内容でしたが、プルチックとエクマンさえ押さえておけば大丈夫な気がします。
次回も感情についての理論です。それでは最後までお読みいただきありがとうございました。