基本的情動理論
Ekman
基本的情動理論について、まず“基本的情動”という考え方についてお話しします。
基本的情動
これは、ある特定の事象に接し、それに対してしかるべき評価が与えられた後に、生体がとっさに発動しうる様々な反応パターンのことです。
つまり、情動は、基本的に反応パターンでできているということです。
では、基本的情動理論の説明に移ります。
基本的情動理論
喜び、怒り、恐れ、悲しみなどの特定の感情が、それ以上分割できない情動の基本的な単位として、生体に生得的に備わっている、という考え方です。そしてそれらの基本単位としての情動は、相互に分離・独立した適応システムの最小単位として、備わっている、という考え方の理論です。
この理論は進化論・生物学的発想を中核とします。
進化論での情動とは、長い生物進化の歴史、ヒト固有の進化の歴史で、徐々に準備されてきたもの、と仮定されています。
それでは、この理論に関する研究について、紹介します。
先天性盲聾児の情動表出 Eible=Eibesfeldt (1973)
・5人の先天性盲聾児の発達を組織的におい、その情動表出の発達が健常児とかなり近似することを明らかにした研究です。ただ、時間的ずれは多少はあるようです。
・彼ら5人は、特定の情動を喚起しそうな場面で、微笑み、眉の引き上げ、しかめっ面、泣く、等の適切な情動表出を見せたようです。
先天性盲聾児は、視覚的・聴覚的に、特定の情動表出の形態やその場面との結びつきを学習する機会を相対的に欠いていることになりますが、それにもかかわらず、適切な情動を見せました。このことから、部分先天的なプログラムによって、発動されたと考えられます。
次に、情動の理論について、エクマンの有名な理論を紹介します。
情動の種内普遍性
Ekman ,1971
種内普遍性
もしヒトの情動が、進化のある時点で明確な遺伝的基盤を伴って定着したものであるなら、それは広く人間社会一般に共通の形態を持って見いだされる。とエクマンは述べています。そして、「喜怒哀楽といった各種情動と顔面表出の間位に各文化に共通する普遍性が存在する」としました。つまり、笑ったり泣いたりは世界万人に共通する!と述べています。
実験
エクマンとフリーセンによる実験を紹介します。
西欧圏・東欧圏の様々な社会文化で、写真を用いた情動認識の比較文化的実験を行いました。その際、様々な表情の人の写真6種類を、様々な文化の人に見せ、どういった情動であるかを言い当ててもらいます。
結果
どの社会文化でも、高確率で写真に写った人物の情動表出を正確に言い当てることができました。
ちなみにエクマンは、翌年に、基本的情動理論と社会構成主義との折衷モデルとして『神経・文化アプローチ』を提唱していますので、併せて確認してもらえると良いと思います。
アージ理論
戸田正直(1992)
少しずれますが、戸田正直は、感情をシステム、として捉えた人物です。
・「感情は行動選択を導く高度に複雑なシステムである」
・アージ:感情よりも広い概念として用いられた語
・4つのアージシステム
- 維持アージ :食欲、性欲、等
- 緊急事態アージ :恐怖、不安、等
- 認知アージ :好奇心等
- 社会関係アージ :協力、援助等
この4つのシステムに分かれていると主張しています。ちなみに、ネガティブな感情も、適応的に機能しています。
今回はこれで終わりです。
今回は感情の理論について紹介しました。エクマンについては特に有名な人物ですので、『感情』総論から復習をたくさんしておくといいと思います。お疲れ様でした。