異常心理学

心理学,臨床心理学

異常心理学とは、心理学的問題の分類体系化を行う領域です。

臨床心理学の実践における、クライエントへのアセスメントに資する学問体系と位置づけられます。

もう少し簡単に言うと、臨床心理学とは、クライエント・セラピストの関係から成り立つ、極めて実践に近い学問とされていますよね。その臨床心理学のためにある学問が異常心理学です。臨床心理学で扱う精神疾患や、症状を分類するためにある学問領域です。

わざわざ臨床心理学と区別する必要性は特にないのですが、今回はこのような題でまとめさせていただきました。

というのも、今回の記事では、この学問の役割精神疾患の判断基準や分類など、幅広い内容を扱う為です。

  • 異常心理学の役割
  • 判断基準
  • 病因論的分類
  • 病態水準による分類
  • 診断基準による分類、他

この順に書いていきたいと思います。

異常心理学の役割

まずはこの学問の役割についてです。

大きく3つに分かれますが、すべて心理学的問題や病理についてのことです。

  • 心理学的問題や病理の記述・分類・類型化
  • 心理学的問題や病理の発生・維持メカニズムの理解
  • 心理学的問題や病理の心理的援助による変化のメカニズムの理解

これらが異常心理学における役割です。

この学問内で行われた解釈やデータが臨床心理学の中で実践として生かされているということになります。

判断基準

次に判断基準についてです。

判断基準は、4つに分かれています。

どれかが正しくどれかが誤っているということではありません。

・適応的基準(適応-不適応)

所属している社会に適応しているか否かで判断する基準です。この適応度は本人に判断をしてもらう場合や、周囲の他者が判断する場合もあります。

・価値的基準(規範-逸脱)

時代や社会の流れのなかで認められているか否かで判断します。そのため正常・異常は一定不変ではありません。規範とは、道徳観、社会通念、または法・倫理に基づくものです。

例えば、かつて同性愛者は異常と判断されていたのかもしれませんが、近年LGBTの理解度が高まり、異常という位置づけはなくなりつつあります。これは近年の社会の流れの中で変化した価値基準です。

・統計的基準(平均-偏り)

集団の中で、平均の範囲内にあれば正常、範囲外なら異常とする基準です。心理検査法などで多量のデータを収集し、数量化して求めます。心理統計をかじっている人なら、「外れ値」という言葉は聞いたことがあると思いますが、そんな感じですね。

・病理的基準(健康-疾病)

これは病理学に基づく医学的判断による基準です。疾病かどうかは医師の専門的判断になります。臨床心理学というよりは精神医学などに近い基準だと思います。

これらが異常心理学の判断基準として使われているものの種類です。

分類

次は心理的問題、症状などの分類についてです。

これは何による分類化によって、またいくつかに分かれます。

・病因論的分類

これはクレペリン(Kraepelin,E.)によって行われた分類です。

その症状や疾病が、何が原因で起こっているか、を基準に分類しており、大きく3つに分かれます。

  • 外因性精神疾患

これは身体障害に起因するものです。

能器質性精神病、症状精神病、中毒性精神病、等です。

  • 内因性精神疾患

これは素質や遺伝など、内部に存在する主因によって発症すると考えられるものです。

精神分裂病、躁うつ病、非定型精神病、などがこれに当てはまります。

  • 心因性精神疾患

急激な状況変化や対人葛藤などの慢性的ストレスに適応できずに陥るものです。

神経症、心身症、心因精神病などがこれに当たります。

ほかに異常性格精神遅滞という分類もありますが、基本的に病因論的分類と言われれば、外因性、内因性、心因性の3分類を把握しておけばいいでしょう。

・病態水準による分類

次にカーンバーグ(Kernberg,O.F.)による病態水準による分類です。

精神分析理論に基づいて、精神疾患を理解しようとする考え方です。

自我機能、人格の発達水準を病態を測る尺度にしようとします。

分類は大きく3つに分かれますが、まずはここでのキーワード「現実検討能力」について説明しておきます。

※現実検討能力とは、現実を正確に把握している能力のことです。例えば、自分は誰であるのか、今日は何年何月何日なのか、ここはどこか、などです。

この現実検討能力病態水準を3つに分類するうえで重要な役割を果たしています。

それでは分類の説明に入ります。

精神病レベル

この水準は、幻覚・妄想の出現、現実検討能力が重篤に侵されている状態です。

統合失調症や躁病などはこの水準に至ることが多いです。

境界例レベル

一見神経症レベルですが、些細な現実の出来事を契機に常軌を逸した行動化や、一過性の精神病状態を呈します。神経症レベルについては次に説明します。ここでは現実検討能力が不安定で、部分的にしか機能していない状態です。

境界性パーソナリティ障害はここに当てはまります。

・神経症レベル

ここでは、様々な症状を訴えますが、現実検討能力は保たれている状態です。

うつ病はここに分類されることが多いのではないでしょうか。

この分類から見てもわかるように、現実検討能力の有無によって分類分けがされていると捉えてもいいかもしれません。境界例レベルは、精神病レベルと神経症レベルの中間のような感じとフィーリングで理解しておいてください。

ただ、神経症レベルだから精神病レベルに比べるとクライエントは辛くない、といったような安直な理解の仕方はよくないと思います。

その他

その他の分類例としては、診断基準による分類、国際生活機能分類があります。

診断基準としては、DSM-5、ICD-10、国際生活機能分類はICFと呼ばれます。

DSM-5とICD-10については別記事DSM-5ICD-10に詳しく載せる予定でいますので、そちらも参考にしてみてください。